命を奪う



ハチの巣をぶち落とす。

棒ッキレの一撃で、ひとつの王国を破滅に追いやる。

巣をほぐして、幼虫や羽化を待つサナギを中から引きずり出し、

フライパンの中に放り込み火にかける。




岩の間で息を潜める魚を仕留める。

足ヒレとゴーグルをつけ、モリを手に海に潜る。

狙いを定めて腕に絡めたゴムを離し、

チカラを蓄えたモリが、水の中を魚に向かって飛んでいく。

三叉の金属に胴を貫かれた魚が、一度だけ痙攣して驚きに満ちた変な目をして死んでいく。




カニとりの仕掛けにかかった運の悪いアナゴ。

70センチもある身体をくねらせて生きようと足掻く。

頭を引っつかんでビニール袋に叩きいれ、まな板の待つ台所へ。

ウナギと同じ要領でアイスピックを脳髄に叩き込み、3枚に卸す。

さっきまで暴れていた生き物が、白い切り身に姿を変える。




アフリカにいた頃、雨の夜はご馳走の日だった。

街頭明かりに、羽をもった白蟻が群がる。

次代の王国を築くために母国を旅立った若者達だ。

キクユ族の友達と一緒に、タモで連中を捕まえる。

長靴一杯に捕まえた白蟻を、ナマのままほうばる。

かすかな甘みと深いコクに酔いながら、ぬるいビールを飲む。



赤い土の上を、

雄山羊と一緒に屠場に歩く。

抵抗する山羊の角を強引に傾け、彼の首を極める。

そうやって、暴れる山羊を屠場へと引きずっていく。

前足を持って、最後に残った後ろ足を刈る。

すっ転ぶ山羊。

すかさずヒザを彼の首に押し付けて自由を奪う。

彼が2度と立ち上がることのないように。

顎に左手を沿え、上にカチ上げて喉に刃を当てる。

一気に引く。

引っ張った輪ゴムを断つように、彼の喉がバクン割れて、血が噴出す。

ばたばたと痙攣する山羊を見守りながら、

彼を解体する為の、吊るすのに丁度いい木を探す。





実家の山で、

実家の海で、

遠い大陸で、

殺して食べた。

突いた魚は数限りなく、

殺した山羊は二桁を越える。






生き物を殺した日は、少し普段とはちがう疲労がくる。

彼らから明日を奪った次の日は、身体が奇妙に重くなる。

近くの山で数百本の杉の木が伐採された日、

その事実を知らぬまま、

僕は身体が重くて起き上がれなくなっていた。





食べる為に命を奪うと、よくわかる。

奪われたものたちの怨嗟と悲哀が、ちゃんと生者に訴えられる事実を。

奪うことで初めて分かる命の凄味がある。




屍を喰らって今日の身体がある。

人は、屍を血肉にして生きている。

都会人だろうがベジタリアンだろうが、喰らう以上は、屍の上に生きている。




幾千万の命を糧に今日を生き、

明日へと歩みを進める我々の命に、

約束された場所なんてあるわけがない。




ただね、

幾千万の命を喰らって掴みとった魂にゃ、

約束の場所なんてあろうがなかろうが、

明日を目指して突き進む力が満ちている。




ハチさん、やぎさん、さかなさん、

うしさん、ぶたさん、いのししさん。

しかさん、たぬきさん、キャベツさん、

むしさん、ナスさん、マムシさん。



ありがとう。




ありがとう。





おいしかったよ。





ごめんね。





ありがとう。




これからもごめんなさい。





ありがとう。
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by 201V1 | 2004-07-26 18:18 | カテゴライズ前・生ログ
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